Alle der Kosmonauten, Zweiland… ベルリンに来て数年。数少ない日本人の友人の中にサシャ・ヴァルツ(Sasha Waltz)のカンパニーで活動していたダンサーがいた。Takako Suzukiさんである。
初めて彼女に会ったのは、どこかで知り合った日本人に声をかけられて一緒にお茶をしたのがきっかけだったように思う。みんなで4人くらいいたように思うが、ベルリンに来てすぐだった私は人に誇れる目標などもなく、「犬も歩けば棒に当たる」精神でただただ歩いてばかりの日々であった。
「あなたはベルリンで何をしているの?」
以前は国際機関で働いていたことがある、という日本人女性に唐突にこう尋ねられた。当時から空気を読もうとしなかった私は敢えてこう返事をした。
「今はまだ特に何もしていません。」
詳しいことは忘れてしまったが「目標はきちんと持った方がいい。」みたいなことを言われたような気がする。その場に居合わせた日本人は既に5年以上はベルリンに住んでいた先輩方ばかりだった。
そのやりとりを黙って横で聞いていたTakakoさんに、後日こう言われたことだけは覚えている。
「あの返事、なんか好きだったな。」
それで私たちは友人になった。
前置きが長くなってしまったが、そんなTakakoさんに声を掛けてもらい、Sasha Walzの作品を何度か観に行ったことがある。
Sasha Waltzがまだそれほど有名ではなく、彼女の作品がSophiensäleの小さなホールで行われていた頃だ。モスクワから来ていた友人と一緒に観に行ったZweilandが大好きだった。1997年のことだ。
そして何の目的もなくただただ歩く日から、ゆっくりではあるが少しずつ地に足がつき始めた頃だろうか。
Takakoさんがゲストとして出演したKörperを観た辺りから、「あれ?」と公演後に違和感を感じるようになった。
その時に感じた違和感のようなものを先日、家族で観に行ったrauschの公演後にもまた感じたのである。そしてそれは少し私を寂しくさせた。おそらく、Sasha Waltzは有名になりすぎて賢く(インテリに)なってしまったのだと思う。1時間50分ほどの公演が少し苦痛に感じた。何がそうさせたのか私にはよくわからない。
白でシンプルに統一された舞台にブラックとホワイトの衣装。半円状に吊られた幕に黒の液体が吹き付けられたり、と舞台そのものの見応えはあったのだから。各ダンサーの踊りについては言うまでもない。
何より驚いたのことは冒頭にビートルズが爆音で鳴り響いたことだ。ホワイト・アルバムからの一曲。だから舞台も白一色だったのだろうか。
Sasha Waltzといえば、今ではベルリンで一番知名度の高い振付家であり、現代ダンス界でその地位を確立している。また、身体表現(ダンス)を超えてオペラや演劇とのコラボ作品も多数手がけている。
公演前には全く知らなかったのだが、来シーズンから国立バレエ団の芸術監督に就任するため、当分新作公演を観ることはできないだろう、とのこと。10月27日に行われたフォルクスビューネ (Volksbühne)のrauschがいわゆるSasha Waltz & Guestsとしての最後の作品に当たっていたようだ。
しかも、国立バレエ団はその決定に対して反対の意を示したというのだから驚きだ。バレエ団の広報は「Vladimir Malakhovは監督になる前にも我々と作品作りをしていた。それはNacho Duatoも同様だ。Sasha Waltzは我々の何に興味を持っているんだ?我々の何を知っているというのか。」かなり辛辣な意見である。
なぜこのような事態になったのかはさておき、国立バレエ団のプログラムを見る限り、来春にはSasha Waltzの作品も公演が予定されているようだ。
彼女とベルリン国立バレエ団の行く末についても気になるところではある。
Takakoさんは元気にしているだろうか。久しぶりに連絡を取ってみよう、とこのブログを書いて思った。
タイトル写真:rausch©Julian Röder