あどけない顔をしたロシアの少年。
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重い荷物を運びながらフラフラしているどこか頼りない15歳の少年は、隊列から遅れがちだ。
ラフマニノフピアノ協奏曲第3番をゲネプロ中のオーケストラ団員。演奏する音楽家の表情のクローズアップや指揮者の指示する声、演奏中の音楽などが過去の戦場の空間とオーバーラップする。
この映画では「音」や「音楽」がとても重要な要素である。ドイツ兵によって打ち込まれたマスタードガスによって、少年は視力を失う。
視力を失うことで聴力が研ぎ澄まされ、戦場に留まりたかった少年にはドイツ軍の戦闘機の音を察知し、仲間に知らせるという役目が与えられる。
主人公のアレクセイを演じたヴラディミール・カラロフを探し当てるのに、監督のアレキサンダー・ザロトキンは「相当の時間を費やした」と上映後の質疑応答で答えた。
とても直接的で、人間性も優れていた。役を作り上げる必要がなかった、というアレクセイ役の少年はプロの俳優ではなく監督が探し当てた一般人だ。アレクセイ役に抜擢されたヴラディミールは両親がいない環境で育っている。
20世紀初頭の人々は日々の辛い労働、慢性的な食料不足などの生活苦が表情や仕草に刻まれていた。
「それらをすでに背景として持っていたのがアレクセイだった。プロの役者もキャステングをしたのだが、裕福な家庭出身の若者が多く、非常に健康的で我々の求めていたものとはかけ離れていた。」と監督は話す。
当時を再現するためのリサーチにも相当な労力が注がれている。絵画や写真など資料を集め、当時のロシア人の典型的な表情・動作・人物のタイプなどを調べ尽くしたのだそうだ。そして、緻密な作業によって浮かび上がってきた人物像に当てはまる役者を選び抜いた。
ロシア人は良いか悪いのかは別として「忍耐強い」という特性がある、と監督。そしてこの忍耐強さを持ってこれまで幾度も歴史的危機を乗り越えてきたのだ、と。ただし、スターリンの全体主義下ではこの特性がマイナスに働いた、とも。
戦場の全く希望の見えない状況下でも、ロシア人ならではのユーモアが見られるシーンなどがあり、そのおかげで観客はちょっと救われたような気持ちになる。
巨匠アレクサンドル・ソクーロフの助言のもと、製作されたロシア人によるロシア的な作品に仕上がっているので機会があれば観て欲しい。
ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番が普段とは全く違うものに聴こえたのも印象的だった。