37 Seconds / ベルリン国際映画祭

「身体に障害があろうがなかろうが、あなた次第よ。」

「お母さんはひとりになるのがこわいだけでしょ。」

「ゆまちゃんがいるのは知っていました。でも、身体に障害があるって聞いて怖くて会いに行けなかった。ごめんなさい。」

23歳の主人公夢馬(ゆま)は生まれつき身体に障害を持つ。そんな夢馬の世話を甲斐甲斐しく焼くのはシングルマザーの恭子だ。

©knockonwood

「あなたは私がいないと何もできないくせに。」

娘を大切に思うあまり、極端に過保護な母親からの自立。ひょんなことから知り合う仲間によって広がる世界。ひとりの女性が成長していく姿をとても丁寧で優しい視線で追う、涙あり、笑いありのドラマチックなストーリー。

一般公募でHIKARI監督が抜擢したのが、佳山明さんだ。

元々は交通事故で下半身不随となった女性を描いていましたが、身体に障害を持つ女性たちからの一般オーディションで選ばれた佳山明さんは、先天性脳性麻痺の方でした。ストーリーはもちろん、明さんにあったカメラの動きや、新しい夢馬の描写の仕方などを一から描き直しました。

https://natalie.mu/eiga/news/294693

そんな監督の言葉どおり、スクリーン上の夢馬には経験に裏打ちされたダイレクトな説得力がある。

「生まれた時に1秒でも早く呼吸ができていたら、私はもっと自由に生きれたのかもしれない。」

37秒間仮死状態で産まれたことが原因で脳性まひになった主人公の夢魔のこのセリフ。余りにもストレート過ぎて為す術もない。

彼女には健常者として生まれた双子の姉が存在する。先に生まれたのが私だったら、1秒でも早く息をすることができていれば。健常者の姉を訪ねた後、夢馬は心の内を明かす。

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それでも最後に彼女はこう言うのだ。「私は私でよかった。」と。

当事者にしかわからないであろう、目に見えない偏見や差別の存在。そういったことにもこの作品は気付かせてくれる。

上映前にHIKARI監督だとは気付かず、「今日はもう眠くて無理だけど、評判もいいし絶対に見たかったので無理して来た!昼間見た映画が難しくて疲れちゃった!」なんて監督の横にいた友人に私は勢いで言ってしまった。

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HIKARI監督はそんな私に満面の笑顔で「難しくないから大丈夫。楽しんでもらえると嬉しい。」と。ほんの数分の出会いだったけれど、彼女の優しさや包容力がスクリーンから溢れ出ている気がした。

2019年ベルリン国際映画祭にて観客賞と国際アートシネマ連盟賞受賞!
おめでとうございます!!

*文中の会話文はあくまでも記憶に基づいて書いているので、必ずしも映画のセリフそのままではないことをご了承ください。


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