前回のCaptain Space Sexだが、95年にベルリンを再訪した時にはトルコ市場として有名なノイケルン地区のマイバッハ運河沿いのアパートに引っ越しをしていた。
当時のアパートにありがちな、中庭を挟んで後方の建物内(Hinterhof)にあり、階段の途中にある共同トイレ (Außenklo)という最強のコンビネーション。しかもシャワーなし。
シャワーはどうしているのかと尋ねると、近くの市民プールに行って浴びているという答えが返って来た。どうやら身体も動かせるし、一石二鳥らしい。
ある日、クロイツベルク36を歩いていると、Captainの顔見知りが声を掛けてきた。スタイル抜群のドレッドヘアの女性だ。常にド派手な格好でウロウロしている彼を見逃す人などいない。その女性との立ち話で「あ、日本人なんだ。じゃ、寿司作れるよね。うちに来ない?」と、唐突にWG(ルームシェア)のお誘いを受ける。
願ってもないお言葉に深く考えることなく頷く。ところがこのWGがこれまた強烈だった。WGはまさにクロイツベルク36のど真ん中。場所はオラーニエン通りからわずか道一本入ったところにあった。その通りの行き止まりにちょうど壁が立っていたらしい。
当時はクロイツベルクもSO36とSW61という二つの呼び方があり、「36は燃えている、61は眠っている」などと言われたものだ。端的に言うと、36はより貧しく、61は落ち着いたブルジョワの小金持ちエリアというわけだ。
5月1日のメーデーの日は外を歩けないほどの騒ぎになるのもSO36のオラーニエン通りだった。普段から闘犬を引き連れたパンクたちが闊歩しているエリアなので、ある意味仕方がなかったのかもしれない。
Captainから繋がったのは、そんなSO36を代表するパンクバンドJingo de lunchのカナダ出身女性ボーカリスト、イボンヌ・ダックズワーズだった。
全く無知というのは恐ろしいもので、その日たまたま機嫌の良かった彼女の笑顔につられて二つ返事をしたことを後になって悔やむことになる。
そんなカリスマ性を持つイボンヌが主演の93年にクロイツベルクを舞台とした映画が「Trouble」なのだから、本当に笑えない。
この密度の濃すぎる毎日が、ベルリンにやって来たばかりの自分にこんな形で訪れようとは予想だにしなかった。
当時のシーンの雰囲気が良く伝わると思うので映画のリンクを貼っておいた。オラーニエン通りのフランケンという酒場も出て来る。ご参考までに。
タイトル写真:トリミングして使用©Georg Slickers