No more Stadtquatier / Tachelesの行方

初めてベルリンを訪れた90年代に衝撃を受けたのがタヘレス(Tacheles)だった。

あそこまでボロボロの廃墟を見たことがなかったのと、訳のわからないエネルギーのようなものが建物を取り巻いていたからだ。

決して明るくはない、それでいて何が出てくるのかわからない混沌としたもの。

タヘレスに入っているカフェザパタ(Zapata)で知り合いになったミシェルとKiBa(Kirchebananensaft / チェリーバナナジュース)を飲んでいると、シャーデ(Schade)と名乗るチェロ弾きが話しかけてきた。

「シャーデって言うんだ。今日の晩『真夏の夜の夢』でチェロを弾くんだけど来ない?」

シャーデ、日本語で言うと「残念」という名のチェロ弾きというのも何だかベルリンらしいな、と思い足を運んだのをよく覚えている。

舞台を観て購入したパンフレットもまだ手元に残っている。

Schiller Theater 1993

Cellist Jan Schade

やはりSchade、とある。

その時にシャーデと話したこともなぜかまだきちんと覚えているのだが、彼は紙に鉛筆でおもむろに3つの点を書き、その点を線で結びながらこんなことを言った。

「モスクワ、ベルリン、パリ。この3つの都市は文化的にとても深い繋がりがあるんだ。」

その2年後、実際にベルリンに住むようになって、彼の言っていたことを実体験することになるとは夢にも思わなかった。

パリには縁がなかったようだが、モスクワとベルリンはがっちりと自分の中で繫がったからだ。

とにかく当時のタヘレスはそんなエピソードと共に自分の記憶の中に残っている。

Der Traum

die Stätte enthüllender Beziehungen

Der Traum ist eine eigene Wirklichkeit, die zwischen dem Sichtbaren und dem Unsichtbaren des Universums schwebt; eines Universums, das der Mensch bei Tag bewohnt und bei Nacht entdeckt.

Vittrio Fagone, 1991

パンフレットには夢についてこんなテキストが引用されている。

2000年を過ぎた辺りから、タヘレスも観光地化されほとんど足を運ぶこともなくなったのだが、今日目にした記事を読んで非常に残念に思った。

タヘレス周辺の空き地を利用してモダンな商業ビルが2023年に完成予定。下の完成予想図を見る限り、もはや以前の面影は跡形もない。

「時代の流れとはいえ、本当につまらないものを建てるんだな。」

壁崩壊直後のベルリンを象徴していたタヘレスの今後の利用法も気になるところだ。スウェーデンの„Fotografiska“が入るとか入らないとか言われているようだがまだ100%確実な話でもないらしい。„Fotografiska“ はすでにニューヨーク、ストックホルム、タリンに美術館を構えている。

あの独特の外観を保ったままうまく改装できないのだろうか。安全性の問題などもあるのかもしれないが、レジェンド的存在だった歴史的意味のある建造物をうまく維持してほしいと願うばかりである。

それにしても、タヘレスのすぐ側にどこにでもあるような商業ビルを建てても仕方がない、と思うのは私だけだろうか。

ベルリンの壁が崩壊して早30年。ベルリンもようやくその他の一都市に数えられるようになったのだろう。そして、それはかつて壁の存在した都市がようやく再建して普通の街になった、というだけのことなのかもしれない。

ベルリンらしさ、というのは何か。それは十人十色なのだろうが、最近のベルリンの都市開発にはワクワクさせる要素がほとんどない、というのが個人的な感想である。街の中心部からとうとう最後に残された隙間が消えようとしている。

参照記事:Berliner Morgenpost / Neues Stadtquartier entsteht rund ums einstiege Tacheles



Comments

“No more Stadtquatier / Tachelesの行方” への1件のコメント

  1. […] ベルリンで「廃墟バー」と言えば、今はなきTachlesを指す。その現代版と言えるのがHolzmarktに当たるだろうか。 […]

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