ヘルベルト・フリッチュ(Herbert Fritsch)監督作品、der die mannに参加している友人のお誘いで、フリッチュ監督としてはシャウビューネでの2作目に当たるNULL(ゼロ)を観に行く機会があった。
私自身も彼の作品を観るのは今回で2度目である。劇場内に入ると、前回と同様ミニマルな舞台装置が目に入った。
舞台中央にチョークのようなもので描かれた円と線からなる幾何学模様。舞台上手には布や紙で作られたカーテンのようなものが何枚か垂れ下がり、下手には大きなスクリーンが設置されている。舞台の隅には赤と黄色の円や、円がくり抜かれた四角いアクリル製ボードが並べられている。そして、長い1本のバー。
写真でも分かるように、フリッチュ作品では役者が安全ベルトで吊られたり、フォークリフトで3mほどの高さまで持ち上げられたり、バーでサーカスのような動きを披露したり、とかなりアクロバティックな技術も求められる。
サウンドや発語、ライティングと壁に映し出される影、役者の動きなどそれぞれの要素が緻密に計算されているようなタイミングありきの演出で、観客も退屈する暇がない。
なんと、この日は公演中に観客席にいた女性が突如、歌いながら舞台に上がるというハプニングも起きた。それに対する役者のアドリブも自然なもので、演出なのかそうでないのか観ている方にはわからないほどであった。
「いやー、あれには驚いたよね。」と公演後に役者さんのひとりが教えてくれたので、事故だったことが判明し二度ビックリ。舞台監督のアシスタントの女性がすぐ側に座っていたことも幸運だったように思う。
役者さん曰く、この作品のために6週間もの間、連日4時間ほどのリハをしたのだそうだ。シナリオなどは特に用意されておらず、テーマやそのテーマに対するフィーリングのようなものを掴むために何度も何度もコレオグラフィーを繰り返す。その上で、これだ!という振り付けだけが残され、消えていったアイデアも数多くあるのだろう。
タイトル画面の大きな「手」。この大掛かりな装置だけが先に作られ、何に使うのかは特に決められていなかったそうである。
これまでに観たフリッチュ監督の作品は言葉が分からなくても十分楽しめるので、観劇にどこか抵抗のある人にこそお薦めしたい。