パンスカ通りのMuzeum / Warszawa-6
最終日のワルシャワは寒くて雨だった。頼れる旅の友は一足先に空港に向かうので、アパートの窓から手を振って別れ、帰り支度を整えてから中央駅に向かう。
天気も悪いし何しようかな?
駅から歩いてすぐの場所にmuzeum na pańskiejというカフェとブックストアが併設されたアートスペースがあるようなので、荷物を中央駅で預けてからそちらへぶらぶらと行ってみることにした。
例の文化科学宮殿の斜め向かいに一見しただけではそれとは分からない建物があった。
上の写真、左下にMUZEUMという看板があるのにお気付きだろうか。どうやらこの共産主義時代の産物であるアパートの一階部分にカフェとブックストアが入っているようなのだが、正面にブロックされた空き地があるため表通りからだと非常に分かりづらい。
裏に回り中を見てみるとこの通り。アートブックを専門に扱うBookoffとeMeSenというカフェ。
年末30日の正午に展覧会の行われていないアートスペースに足を運ぶ人は皆無。スタッフも暇を持て余しているようだったので、少し話を聞いてみることにした。
「パンスカ通りのスペースは一時的にMuzeumのオフィス兼イベントスペースとして利用されているんです。正面の空き地に立っていた家具屋の事務所だったんだけれど、文化科学宮殿のパーキングエリアに2020年を目処に新しく展示スペースが確保される予定になっています。」
「ビスワ川沿いにベルリンからどうやって運んだのかは分からないんだけれど、展示キューブが設置されていて、そちらでなら展示を見ることが出来ますよ。残念ながらここでは何もやっていないので。是非、行ってみてくださいね。」
川沿いの展示スペースの方はベルリンから運ばれてやってきたキューブだというお話。まさかのベルリン繋がり。
こちらのキューブ。確かにベルリン宮殿跡の空き地に設置されていたことがある。デザインしたのはオーストリア人のAdolf Krischanitz。ベルリンの展示スペースが不足していることをテーマにしたテンポラリーギャラリーとして利用されていたものなんだそう。ベルリンは移り変わりが激しいので、この移動式展示スペースのことはすっかり忘れていた。2008年から2010年までここにあったらしい。
そしてワルシャワに運ばれ、仮の展示スペースとして再利用されているのがこちら。Sławomir Pawszakによってファサードにペイントが施されている。展示タイトルはniepodległa:ポーランド語で「独立」そのものを表す言葉で、ポーランド独立100周記念を念頭に据えた国としての独立と自立した女性を表す「独立」の二つの意味を兼ね備えているのだろう。国、女性、独立、いずれもポーランド語では女性名詞である。
Heimat ist da, wo das Herz ist.
心の故郷、といったところか。
ポーランドに生まれドイツで活動したマルクス主義の政治理論家、哲学者、革命家ローザ・ルクセンブルク。彼女はウクライナ国境近くのザモシチで生まれたが、その生家の記念プレートをポーランド政府が外すように言い渡したらしい。2018年3月のことだ。2015年に保守政党である「法と正義」が政権に就いて以降、情勢が変化している。
展示会場には男性の姿も多くみられ、熱心に作品の解説を読む人の姿も多く見受けられた。ポーランドの右傾化を懸念する報道も後を絶たないが、「独立」というキーワードでこうした国の今後や女性の社会的地位を示唆するようなアート作品を展示することの重要性は計り知れない。今の日本でも十分意味を成す展示内容だったように思う。
ワルシャワにはまた良い季節になれば是非足を運んでみたいと思っています。今回のワルシャワ編はここで終わりです。最後までお付き合い頂きありがとうございました!