Поспорт, пожалуйста! / モスクワでの失敗談(2)
現在のモスクワの事情は分からないが、95年〜2001年までベルリンとモスクワを行ったり来たりしていた時期には、外国人としてモスクワを歩いているだけで身分証明書の提示を求められることが多かった。
これまたおかしなことに週末になると、その頻度が目に見えて上がるのだ。
2001年にはひょんなことからモスクワの医療クリニックで働くことになり、ベルリンでロシア学科を専攻していた繋がりで、ベルリンの外国人局には「インターンとしてモスクワで働く」というつじつま合わせが成立。モスクワのクリニックを通してマルチビザを発行してもらっていた。
マルチビザを持っていると、ビザ有効期間中は何度でもモスクワを出たり入ったりできるので非常に便利だ。
パスポートにマルチビザが貼ってあり、もちろん違法滞在でもなんでもないわけである。それにもかかわらず、モスクワの警察官に捕まると理由をでっち上げられて罰金を払え、と言われることも多々あるとモスクワに住む外国籍を持つ知人友人は口を揃えて言った。
実際、私も何度かそういう目にあったが、そこで払ってしまうと今後モスクワに来る日本人に迷惑が掛かると思い、向こうが何を言おうとこちらの正当性を譲ったことはない。
さて、ある日のことだ。その日はアメリカ人の同僚と確かタガンカ劇場に行った帰りに赤の広場を横切っていた時のことだったように思う。
Поспорт, пожалуйста! (パスポートを見せなさい!)
警官がふたり向こうからこちらに向かって歩いてくる。
なぜだか知らないが、突然日頃のクリニックでのストレスやその他諸々の理不尽なできことの積み重ねで、このシチュエーションに我慢ができなくなったのである。
海外生活あるある、というか一瞬にして全てがアホくさくなる瞬間がまさにこの時だった。
Нет, спасибо!(いいえ、結構です!)
冷静に考えればロシアで警官に対して「いいえ、結構です。」が通じるはずもないのであるが、何を思ったのか同僚のアメリカ人をその場に置いてさーっと退散してしまった。平たく言えば、走って逃げたのである。
背後からはまさかの反応に遅れを取った警官の大声が飛んでくる。
Стой!(止まれ!)
周りのロシア人には何事かとジロジロ見られるなか、さっさとメトロに乗って家に帰ってしまった。
気の毒なのはその場に残された同僚のアメリカ人ドクターだ。
電話をして確認をすると、2時間ほどあーだこーだと取り調べのようなものを受ける羽目になったらしい。
パスポートも見せず、踵を返してトンズラするような連れと歩いていたのだ。怪しいと思われても仕方ない。
ロシア人の友人にこの話をすると、「警官に止められて走ってその場から逃げたりするのは一番だめ!撃たれたりしたらどうするの!?」と言われた。
やれやれ。野蛮過ぎるだろ。
何が失敗なのかというと、いつもお世話になっていた年配のアメリカ人ドクターをある意味囮にし、自分だけさっさとその場を退散したこと。結果、彼に多大なる迷惑を掛けたことである。本当に申し訳ないと思っている。