ドイツの中絶を巡る最近の動向(2)
前回の「ドイツの中絶を巡る最近の動向(1)」でまとめきれなかった分を今回は整理してみたい。普段はそれほど意識していないキーワードがたくさん出てきたので、それらについて少し触れてみよう。
1)女性の自己決定
219a条の削除について、緑の党の女性政治広報担当者ウレ・シャウヴスがこんな見解を述べている。
219aの削除は、医師の犯罪化および女性が直接、医療情報にアクセスすることを拒まれることに終止符を打つものだ。医師にとって法的確実性をもたらし、女性の自己決定(Selbstbestimmung von Frauen)を強化するものである。実現したのが遅すぎるともいえるが、非常に正しいことだ。
ウレ・シャウヴスのHPより
219a条が削除されることによって、これまでは文字通り「犯罪」扱いされた情報公開がようやく認められた形となった。中絶を希望する女性が最寄りの産婦人科医のホームページなどで、中絶が可能な医師を探しやすくなったといえるだろう。医師側にとっても、サイト上に中絶に関する医療情報を掲載するだけで罰せられる心配がなくなったわけだ。
ここでシャウヴスのいう「女性の自己決定」は、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツとも深く関係している。
2)セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
英語のSexual and Reproductive Health and Rights、頭文字をとって、「SRHR」と呼称されます。日本語では、「性と生殖に関する健康と権利」と訳され、内閣府や全国の自治体でも使われています。すべての人の「性」と「生き方」に関わる重要なことです。
ジョイセフのHPより
こちらも引用になるが、非常にわかりやすくまとめられているので以下にそのまま引用してみたい。
- セクシュアル・ヘルス
自分の「性」に関することについて、心身ともに満たされて幸せを感じられ、またその状態を社会的にも認められていること。 - リプロダクティブ・ヘルス
妊娠したい人、妊娠したくない人、産む・産まないに興味も関心もない人、アセクシャルな人(無性愛、非性愛の人)問わず、心身ともに満たされ健康にいられること。 - セクシュアル・ライツ
セクシュアリティ「性」を、自分で決められる権利のこと。
自分の愛する人、自分のプライバシー、自分の性的な快楽、自分の性のあり方(男か女かそのどちらでもないか)を自分で決められる権利です。 - リプロダクティブ ・ライツ
産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかを自分で決める権利。
妊娠、出産、中絶について十分な情報を得られ、「生殖」に関するすべてのことを自分で決められる権利です。
「自分で自分の人生を選択できる」という権利。一見当たり前のようにも思えることだが、果たして上にあげた全てにおいて、選択肢を与えられている人などいるのだろうか。そんなことを考えさせられるテーマである。
人生において、特に女性は出産というイベントによって、変化を受け入れなければならない立場になるケースが多い。そのことについて疑問に思ったことのある人は少なくないだろう。「なぜ女性側だけ仕事に復帰できないのか?」「この社会制度はおかしくはないか?」「なぜ自分ばかり我慢を強いられるのか?」ドイツや日本といった先進国で生活をしていても、どこか不平等に感じてしまう社会システムが存在する。しかし、これが妊産婦のヘルスケアが十分ではない貧しい国々では、さらに女性の足枷となっているのが現状だ。
3)性と生殖に関する健康(SRH)
すべての人には性と生殖に関する健康(SRH)を享受する権利があります。それは子どもを産み、パートナーと信頼関係を築き、そして社会的な最小単位である家庭を築くための基本です。SRHは、望まない妊娠をなくし、すべての出産が安全に行われ、すべての若者がHIV/エイズの脅威にさらされることなく生活し、すべての女性と少女が尊重され、尊厳ある人生を送ることができるようにするという、国連人口基金の活動理念の主要な分野に反映されています。
貧しい女性、中でも開発途上国に住んでいる女性は特に、意図しない妊娠、妊娠と出産を原因とする死亡と障害、HIVを含む性感染症、ジェンダー(男女の社会的性差)に基づく暴力、そしてその他にも生殖器官や性行動に関する様々な問題に苦しんでいます。また、若者は必要な情報を入手したりケアを受けることが困難なので、思春期の若者(10~19歳)のSRHの改善にも、重点的に取り組んでいます。そして、これらの活動は基本的な支援物資が調達できるかどうかにかかっています。
国連人口基金 駐日事務所「性と生殖に関する健康を改善する」より
国連人口基金(UNFPA)は、国際連合内の人口分野における中心的役割を果たす機関。UNFPAは、国連システム下で人口分野における諸活動を強化するための財源として国連事務総長の下に信託基金の形で発足。1972年に同基金が十分成長したことより、第27回国連総会決議に基づき国連の下部機関として認められた。UNFPAは、上記の通り家族計画の推進に重点を置いているため、主に人口増加率の高いアフリカ及びアジア・太平洋地域への援助に向けられている。(外務省HPより)
項目3)は2)との重複があるが、ここでは主に貧困国で問題になる「性と生殖に関する健康」に取り組んでいる国連人口基金について取り上げることにした。
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今回のリサーチではここまで範囲を広げてリサーチするまでには至らなかったが、「中絶」というキーワードで検索するだけで、数々のキーワードに触れることになった。この問題がいかに多様な範囲に及んでいるのかがよくわかる。このブログはメモがわりに、キーワードをご紹介するような形になってしまったがお許しいただきたい。
専門家とのインタビューの中でも、「中絶問題」と「出生前診断」はあまり一緒に議論されないことが多い点や、「ジェンダー問題」といったときにも、それぞれの団体や基金によって立場が違うため、なかなか協力して本質的な問題を解決できない、といった声も聞くことができた。
個人的に普段から気になるテーマではあったが、なかなか掘り下げる機会がなかっただけに、これを機に関連する記事や団体についても、時間のある時にまとめておこうと思っている。