対等な関係と出産 〜Gleichwertigkeit und Geburt〜
最近、巷でよくジェンダー関連ネタが流れてくるので、これまでの自分はどういう環境にあったのかな、と改めて思い返してみることにした。
現在のパートナーというか相方は、ドイツのベルリンで知り合った地元ベルリナーである。相方と知り合った当初、私は日本のメディア、主にテレビや広告の撮影をコーディネートする映像制作会社でフルタイム勤務をしていた。彼の方は社会福祉関連での仕事をしており、ふたりとも会社員だった。
勤めていた映像制作会社はドイツにあるとはいえ、業界にありがちな働き方をしていたので、残業は当たり前。ロケが入ると2週間や3週間単位でまとめて家を空けることも多かった。
定期的に給与が振り込まれる生活をしていたので相方とは経済面で「対等な関係」にあった。要は生活費なども含め全て折半していたわけだ。
しかし、妊娠・出産を経て自分を取り巻く状況が劇的に変わった。こちらが望むか望まないかは別にして。
まず、職業柄、妊娠中に車で長時間の移動などが頻繁にあるロケに出ることができなくなった。これまでは仕事と言えば主に現場担当だったのが、一転して同僚たちのロケのオーガナイズや経理業務といった事務所でのデスクワーク中心になった。
幸いにも妊娠中にひどいツワリなどがほとんどなかったので、半日出勤が可能だったが、仮にツワリなどがひどい場合にはそれすらもままならなかったはずだ。
臨月が近づくと、出産予定日の数週間前後に「母親保護期間」という制度で出勤する必要はなくなり、給与が保障される。この制度は会社側が一方的に妊娠を理由に女性社員を解雇できないよう、働く女性の権利を守るために作られた法律である。
しかし妊娠が明らかになった時点からフルタイム勤務ができなくなっているので、手取り金額は妊娠前と同じというわけにはいかない。
出産前まではいわゆる「対等」だった関係が、妊娠や出産をきっかけに崩れてしまう。ほとんどの場合、妥協しなければならないのは女性側である。代理出産などでない限り、実際に妊娠するのはパートナーの女性で出産をするのもその女性だからだ。
相方が「協力する」というのはわかるが、結局のところ本質的なところで何らかの犠牲を払うのはあくまでも女性側なのだ、ということを妊娠・出産を通して痛感することになる。
産後もその状況はそれほど変わらない。我が家の場合、子供が粉ミルクを全く受け付けなかったので、完全母乳での育児。すなわち約2時間おきの授乳が数ヶ月も続き、不眠でフラフラにも関わらず慣れない初めての育児をほぼ終日ひとりで遂行しなければならなくなった。
相方は育児休暇を出産予定日の前後に数週間取ってはいたが、実際に助けになったのはどちらかといえば出産を経験済みの実の母親だった。
そんなわけで妊娠中に8キロ増えた体重も授乳などであっという間に元に戻った。
体重は元に戻るが、ホルモン的にも体型的にも思いの外、変化が起こる。妊娠中に自分の身体がどんどん変わっていくのは不思議な気持ちがしたし、不安に感じることもあった。
出産前から復職を見据えて保育園確保に奔走したのも記憶に新しい。住んている地区は保育園・幼稚園の激戦区。電話では相手にしてもらえず、わざわざ出かけて行って直接交渉したりもした。今から思えばよくひとりであんなことまでやっていたと思う。
しかし、二人目の妊娠が分かった時にはさらに大きな変化が待っていた。半日勤務だった仕事が続けられなくなったからだ。
「ふたりも子供がいるんじゃ仕事続けるのは無理だよね。」
確か上司にはこんな風にあっさりと言われたような気がする。
そして、現実問題として二人目の妊娠は一人目のそれよりもキツかった。長女はまだ2歳。保育園から頻繁に菌をもらってきては体調を崩し、それが妊娠中の自分にもうつるからだ。妊娠中は基本的に強い薬が一切飲めないので、パラセタモール(解熱鎮痛薬)を気休めに飲むだけ。
二人目の出産予定日が真冬だったため、咳が止まらず肋骨が痛んで本当に辛かったことを覚えている。あまりにも痛むので救急病院に駆け込んだが、長時間待たされた挙句、予想通り薬を処方されることもなくトボトボと帰宅したのだった。
とはいえ、出産そのものはどちらも安産。産後の肥立ちもそこそこ順調ではあった。そして大変だけれども自分の子供はやはり可愛い。それだけがモチベーションになった。
0歳と2歳。1歳と3歳。あまり手がかからなくなったのは長女が小学校に上がる頃だろうか。長男の出産前に前職は解雇(表向きには自主退職扱い)になり、失業手当の切れる出産1年後くらいからフリーランスで少しずつ仕事を始めた。
在宅フリーランスは予想以上に大変だった。子供が小さいと特に冬場はしょっ中体調を崩して自宅にいることになる。一度なんかはそのタイミングでインタビュー起こしを5日以内に6本しなければならなかった。今思えばあの状況、完全に育児ノイローゼ一歩手前だったような気がする。
それくらい育児と仕事の両立は子供が小さな頃は苦行でしかない。個人的な資質も大いに影響するので一概にはもちろん言えないが、私の場合はそうであった。
→続く
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