Häusliche Gewalt / ドイツのDV問題②
先日、ドイツのDV事情が気になったため、まずは全体像を把握するためにBundesministerium für Familie, Senioren, Frauen und Jugend (BMFSFJ / 連邦家族・高齢者・女性・青少年省)のサイトに記載されていたHäusliche Gewalt(家庭内暴力)というテーマの記述を中心に「ドイツのDV問題」でまとめてみた。
そちらのブログ記事ではドイツ国内の統計情報や同サイトで紹介されていた18ヶ国語で対応しているホットラインについて触れるのみに留まった。ツイートでその点についてClara Kraftさんからご指摘もあったので、今回はドイツ全国に以前から存在するFrauenhaus「女性の家」(日本の「DVシェルター」に近い)についても取り上げることにした。
2001年にドイツ全国のFrauenhausや専門的なアドバイスを提供する団体などを専門的観点や政治的な活動をサポートするためにFrauenhauskoordinierung(FHK)がフランクフルトに設立された。FHKは2010年にベルリンに本拠地を移している。FHKはドイツ全国の共済組合やその施設などをネットワーク化している。
約260のFrauenhausおよび230の専門的アドバイス提供先が暴力の被害を受けた女性、子供たちのサポートシステムを促進し、確実なものにするべく尽力している。FHKの活動は連邦家族・高齢者・女性・青少年省によって助成されている。
Frauenhauskoordinierung (FHK)
FHKのHPには全国のFrauenhausの空き状況を検索できるシステムなど、身を守るために有益な情報がまとめられている。
キャパシティー不足と死の危険性
しかし、Frauenhausをめぐる現状はかなり厳しいようだ。2019年1月25日に放送されたDas ErsteのPanoramaで「保護なし:ドイツはどのように暴力を受けた女性が放置するのか」という特集が組まれていた。
その中で触れられていたのは、現在ドイツ国内には暴力を受けた女性の受け入れ先6800人分が確保されているが、実際に必要だとされているのは2万1400人分のキャパシティーである。結果、1万4600人が必要な保護を受けられない状況となっている、という現状だ。
届出がなく表沙汰にならない家庭内暴力の存在を考えると、実際にはもっと多くのキャパシティーが必要になるはずだ。職員の話では、今すぐに保護が必要な女性を受け入れられないということが、被害者、そしてその子供の死に繋がることを意味するということだった。
連邦刑事庁(BKA)の統計によると、2018年には147人がパートナーあるいはExパートナーによって殺害されている。殺害未遂についてはその数は3倍に上るのだそうだ。約11万4000人の女性がパートナーからの暴力による被害を受けている。先ほども述べたように、届出のない件数を含めればその数はさらに膨れ上がるだろう。
移民背景を持つ女性とFrauenhaus
Frauenhausに逃げ込む女性の多くは、他の選択肢を持たない。自分で別の場所に住居を得たり、ホテル代を出せたり、親戚や友人を頼れる場合にはFrauenhausに来ることはないからだ。
Frauenhausに来る女性の多くはドイツ以外の国籍を持つ。彼女たちの多くは他の選択肢を持たないからだ。ある職員の話では8人中6人がドイツ出身ではないということだった。これは全国的にも顕著で、約68%の女性がこれに当たる。
BKAの統計によると、家庭内暴力の加害者の約68%、約13万9000人は反対にドイツの国籍保持者となっている。
着のみ着のままでFrauenhausに来る女性たちも少なくない。彼女たちは何もない状態からやり直す必要に迫られる。一人当たりの生活に必要な費用を捻出するのも課題となっている。Hartz IVなどの社会保障が受けられない場合には必要な費用の一部を自分でカバーしなければならないからだ。カバーできない場合にはFrauenhausの保護を受けられないケースも出てくる。
結果的に一番弱い立場にある女性たちが放置されることになるのが現状なのだ。
イスタンブール条約
ドイツも批准済みの欧州評議会条約、いわゆる「イスタンブール条約」によって、Frauenhausのベッド数を増やす努力が促進されている。
平均ベッド数17を持つ770のFrauenhaus。この数が達成されれば、どのFrauenhausにも常時ひとつの空きがある計算になるとされているようだ。しかし、この目標を実現するための国からの十分な予算がない。
2019年の9月に女性議員、フランツィスカ・ギフェイがこのテーマに乗り出すことを表明した。次の2年間、350万ユーロの予算を組むというのだ。これが実現すればいくつかの新しいFrauenhausが誕生することになる。
現場の職員はしかし、長期的な持続性のある資金繰りが必要になると訴えている。国からの支援はもちろん、州や地域の前向きな協力が必須だからだ。
どのような形であれ、一番の弱者が生命の危機に晒される現状が少しでも解消されることを願ってやまない。
もちろんDVの被害者は女性だけではない。男性が被害にあった場合に相談できる施設もいくつかあるのでBeratungsstelle für Männer (男性のための相談所)のリンクを貼っておきます。
参照サイト:
– Das Erste / Panorama: Kein Schutz: wie Deutschland verprügelte Frauen im Stich läßt
– Frauenhauskoordinierung