シンギュラリティとは
昔からSF作家はすごい、と感じていた。なぜなら彼らの生み出す世界観はまるで未来を予知しているかのように思えたからだ。
だから一時期、SF作家の作品にハマっていたこともある。
それは例えば、ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」だったり、フィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」、スタニスワフ・レムの「ソラリス」、ストルガツキイ兄弟の「滅びの都」などであった。
SF世界の未来像はそれでもどこか暗くディストピア感が漂う。
人類よりも優れた人工知能が世界を支配しがちだからだろうか。全体主義や支配国家のイメージがよく使われるからだろうか。
アメリカの発明家であり人工知能研究の世界的権威であるレイ・カーツワイルが今から15年前の2005年に提唱した「シンギュラリティ」という未来予測の概念がある。
シンギュラリティは、英語で「特異点」という意味だが、人工知能(AI)が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)を指す。
カーツワイルによれば2045年にすでにAIは全人類の脳を超えた知能を持つと言うのだから完全にSFの世界が現実になる。2045年というのはそんなに先の話ではない。たった25年後の世界である。
なぜそんなことが可能になるのか、というと技術革新のスピードが速いためだ。指数関数的にどんどん技術が進化していくとすれば、2045年頃にはAIが人類を超える計算になる、というわけ。
そんなことを言われても。2020年になってもまだハンコやファックス、エクセルを使ってる会社だってたくさんあるのではないのか。もはや今の技術進化のスピードに多くの人々が追いつけなくなっているのかもしれない。
現在のAI技術は特化型と呼ばれており、ある機能だけを搭載した用途限定型のものが多い。iPhone搭載のSiri、無人レジ、自動運転、ロボット掃除機などがこれに当たるだろう。
それが2030年頃には汎用型AIになり、2040年頃にはAIが全人類と同等の知能を持つようになる。そんな風にカーツワイルは予測しているのだ。
10年後にはAlexaも人型になって、その辺を歩き回っているのかもしれない。そうなってくると、今はまだAIに取って替わられていない職業がなくなってしまうだろう。
オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーンはカール・ベネディクト・フレイとの共著で2013年に「雇用の未来」という論文を発表している。その中でコンピュータ化によって消えてしまうであろう職業をリスト化している。
テレマーケターから口座開発担当者といった職業がトップ10に挙げられている。
それにしても、このリスト上にはざっと700を超える職業が羅列されている。2年ほど前にベルリンで「インダストリー4.0」をテーマにした取材に同行した際にも、やはり将来的に淘汰されるであろう職業の話題になり、多くの雇用者が不安に感じている、といったような話が出たのを記憶している。
しかし、AIを脅威に感じるのではなく、共存するという考え方にシフトした方が良さそうだ。人間の強み、AIの強みはそれぞれ異なるので、人間が得意とする「感情」に注目し、PDCAを小さく早く回す。そして多様性を活かしたチーム作りをする。
2020年も残すところわずかだが、このようなテクノロジーの進化の過渡期をリアルに体験できるというのはどこかSF的ではないだろうか。悪くない。