Yosui Inoue / 井上陽水の「氷の世界」

物心ついた時に自宅に掛かっていた曲と言えば、井上陽水の「氷の世界」やピンクレディーの「UFO」だったように思う。幼稚園の時は「傘がない」や「夢の中へ」が好きだった。

これを書けば世代がわかると思うが、さすがにまだ小さかったのでオイルショックについての記憶などはない。

今、YouTubeで井上陽水のアルバムを聴きながら、これを書いているがどの曲も何度も聴いたことがあるのだろう。どこか懐かしい。

それより、何このクオリティ。井上陽水はやはり天才なのだろうと思う。

井上陽水/氷の世界

ところで、なぜ急に井上陽水なのか。先日、ツイッターで『傘がない』を英訳するとどうなる?ロバート キャンベル氏が翻訳して気付いた 井上陽水の深〜い詞世界というBLOGOSの投稿を見かけたからである。

そもそも、井上陽水の独特の詩を英訳しようという心意気が素晴らしいし、日本語の理解力を超えるその先の感性が必要とされる作業だと思ったからだ。

キャンベル氏、病の床に就いていたときに1日1曲ずつ翻訳を始めたのだそうだ。退院までの50日間にわたり翻訳された歌詞が収録されているのが今回出版された『井上陽水英訳詞集』である。

それにしても73年に出たシングル「氷の世界」。全体的にあまり明るいトーンではない。「毎日 吹雪」で「こごえてしまう」ような寒さ。72年に出た「傘がない」はそれに輪をかけたような暗いトーンで始まる。

井上陽水/傘がない

まだ高度成長期の坂を登り切って、73年のオイルショックを迎えた頃の日本。果たして、それほど暗いものだったのだろうか。

時代背景ももちろんあっただろうが、何より世の中から取り残されたかのような人物像が浮かび上がってくるだけに、いつ聴いても刺さる。

世界は冷たく、都会では自殺する若者が増えている。そして傘もないのだ。

救いようがない。救いようがないはずなのに、響くのだ。

井上陽水の独特な世界観がロバート・キャンベル氏の手によってどう解釈され翻訳されたのかとても気になる一冊だ。

ロバート キャンベル(Robert Campbell):ニューヨーク市生まれ。
日本文学研究者。国文学研究資料館長。
近世・近代日本文学が専門で、とくに19世紀(江戸後期~明治前半)の漢文学と、漢文学と関連の深い文芸ジャンル、芸術、メディア、思想などに関心を寄せている。テレビでMCやニュース・コメンテーター等をつとめる一方、新聞雑誌連載、書評、ラジオ番組企画・出演など、さまざまなメディアで活躍中。
詳細プロフィールはロバート・キャンベル氏のHPをご参照のこと。

こちらのベスト盤もかなりオススメです。


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