ベルリンにおける文化生活とは 〜das Berliner Kulturleben〜

前回の投稿でも少し触れたが、ベルリンでは外出制限が敷かれる前に既に3月11日に公立の大劇場が閉鎖を決定し、同月13日には図書館、オペラ、劇場といった全ての文化的施設が閉鎖する決定が出された。

外出制限が敷かれてから2週間強が経ったが、日常生活から芸術や文化に触れる機会が奪われたことが一番辛いことのように感じる。映画館で気の向いた時に映画を観たり、シアターで観劇をしたりといった楽しみがなくなったということなんだけれども。

ベルリンに来た1番の理由が質の高い芸術が誰にでも一律に享受できる、というところにあったくらいだから尚更だ。オペラ座やフィルハーモニーに行くのもドレスコードが緩いベルリンではウィーンなどに比べ驚くほど敷居が低いように感じる。とにかく気楽に足を運べるのが魅力なのだ。

ベルリンはそれほど綺麗な街ではないが、博物館や美術館の充実ぶりは類を見ないし、シアターやギャラリーなどの文化施設の数は大小合わせるとかなりの数に上る。音楽もフィルハーモニーなどのクラシックからクラブシーンなど幅広いジャンルで定評がある。何でもあり、まさに「多種多様性」の一言に尽きる。

そんな中、ベルリン市のクラウス・レーダラー政府文化担当参事のインタビューを盛り込んだゲーテ・インスティトゥート東京によるライブ配信を見る機会があった。

番組のリンクを貼っておいたので詳しいことはここでは割愛するが、日本とドイツ、特に東京とベルリンの現状を比較してそれぞれの文化セクターの風土や歴史による相違や公的支援策についての考察が行われていた。

今回、ベルリン市の緊急支援策は前例がないほど迅速に行われた。外出制限の制定に至るまでの過程もコロナウイルスの専門家を交えたブリーフィングが長時間行われ、各文化施設から責任者を呼び長期的な視点から具体的な話し合いが持たれたようだ。

ドイツも今回のような規模でのパンデミックはまだ経験したことがない。外出制限などの決定は感染症・疫病予防法を元に州や自治体がそれぞれ規定を定める形が取られた。ドイツが連邦制である所以である。

それに比べると、「日本ではいまだ具体的な政策打ち出されておらず、全てがあいまいな『自粛』扱いで法的に敷かれた決まりではないため自粛に対する補償をする必要がない、というおかしな状況になっている。」といったことを番組内では疑問視する声が上がっていた。

日本における具体的な政策がどこまで施されているのか、ということについてはここでは特に触れるつもりはないが、一般市民レベルまで必要な情報が十分に届いていないのではないかというのが個人的な感触としてはある。

今回、日本での現状をライブ配信で少し知ることができて思ったことは、日本にはまだ芸術文化に対するコンセンサスがしっかりとは存在していない、ということだろうか。

東京も民間セクターが強い、という点ではベルリンと恐らく一致はしている。しかし、ベルリンの劇場がジャーナリズムの存在とほぼ同様、議論の場として認識あるいは機能している反面、日本のシアターにはそういった伝統はなく、非常時に連帯できるような横の繋がりもないのではないだろうか。

ベルリンのフォルクスビューネなどは反骨精神むき出しのシアターであるし、こういった独自の箱を持つ劇場は公共の教会やサロン的な役割を果たしているのかもしれない。

そして、有難いことにベルリン市の政治家は零細事業者やフリーのアーティストの心情や境遇に寄り添った具体策を打ち出せる器量があるのだから、市民としてこんなに勇気付けられることはないだろう。

さて、今回の補償についてレーダラー氏はベルリンにはアーティストやクリエイターなどからなる零細事業者が数多くいること、そして彼らのために小さな雨除けの傘となる補償を半年で5000ユーロ支払う決定がなされたことについて触れ、

「我々はIBBの従業員および市の職員に、ここ数日間の多大なる尽力に感謝を表明したい。多くのアーティストにとって補償は生き延びる上で非常に重要なものだ。そして、彼らの存続によって文化セクターの拠点であるベルリンの維持にも繋がるのだから。」とベルリン市の特殊性についても述べていたのが印象的だった。

その補償というのがこちら:

  • ベルリン市はこれまでに9億ユーロを10万の企業、フリーランスおよび自営業者、中でもアーティストに対して支払いを行なった
  • さらに数10億規模が見込まれている連邦プログラムに引き継がれるため、これまでの申請手続きは4月6日まで中断される
  • 4月1日12時までにIBB(Investitionsbank Berlin / ベルリン投資銀行)に申請された分については支払いが行われるが、それ以降にウエィティングだった申請者については6日10時以降、待ち時間はそのままで連邦プログラムに引き継ぎが行われる

2002年からドイツに税金を納めていること、今回のコロナウイルスによる影響が長期化しそうなことから、半信半疑でオンライン申請をしたのが3月31日の午後。なんとその翌日にはIBBの方から申請受理を知らせるメールが届き、支払い確認ができたのでさすがに驚いた。

申請の簡易化もそうだが、支払いまでのスピードが迅速すぎたからだ。これまでドイツというかベルリンに住んでいて経験したことのないような事務処理速度だった。

この補償については各自で自分の置かれている状況(ビザの種類や更新のタイミングなど)やこれまでの納税期間、収入など諸要素を鑑みて申請するかどうかよく考えて欲しい。

課税対象扱いであるし、申請したものの正直に言うと具体的な補填対象が明記されておらず不安な点も多いので、税理士に相談するつもりだ。個人情報と紐付けなので、後から追跡しようとすればすぐにできるので不正など以ての外であることは言うまでもない。

こういった非常時にはSNS上などで不確かな情報が交錯することがほとんどだと思う。そういった一次情報ではないものに踊らされるのではなく、自分でできるだけ一次情報に当たり、それでも不確かな場合は信頼のできる専門家に相談するのがベストだろう。

この非常時に改めてベルリンの懐の深さに随分と助けられている気がする。そんなベルリンでも本日から制裁金リストなるものが公表された。ベルリン市の努力が無駄にならないよう、少しでも多くの人が外出を控えることを願うばかりだ。

参照:

Senatsverwaltung für Wirtschaft, Energie und Betriebe : Soforthilfe II herausragend erfolgreich, jetzt Anpassung an das Bundesprogramm – Pressemitteilung vom 01.04.2020

Bundesministerium der Justiz und für Verbraucherschutz : Gesetz zur Verhütung und Bekämpfung von Infektionskrankheiten beim Menschen

Bußgeldkatalog für Corona-Verstöße in Berlin



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