親子留学〜Mutter-Kind-Sprachreisen〜

「親子留学」という留学のカテゴリーを初めて耳にしたのは数年前のことだ。

よく聞くケースは、母親と子どもだけでドイツに来て現地の小学校で学び生活をする、というパターンである。しかも、最初は難民を対象とした「ウェルカムコース」を受講するのだとか。

これだけ聞いても、親子揃って何がしたいのかよくわからない、というのが正直な感想である。「ウェルカムコース」というのはドイツ語で行われる正規授業についていけない児童を対象にした特別コースだが、学年ごとにクラスが分けられているわけでもないし、ドイツに逃げてきた難民を対象にされているため、特定の国籍の子どもたちで閉められている場合が多いからだ。ボスニア出身の知り合いの子どもに使用している教材を見せてもらったら、ドイツ語の教科書がアラビア語で書かれていたのでびっくりしたことがある。

「ウェルカムコース」も2022年2月以降はウクライナから逃げてきた子どもたちが増えているはずだ。基本的に、日本の補習授業のように手厚いフォローはないと考えた方がいい。現場の話を聞くと、授業を成立させるだけで精一杯というところだろうか。成立しないケースも多々あるようだ。信じられないかもしれないが、「ウェルカムコース」に参加する前に一度も鉛筆を握ったことがない子どもや授業中に静かに椅子に座っていられない子どもたちがクラスメートになる可能性だって多々ある。そして、これは何も「ウェルカムコース」に限ったことではなく、移民背景を持つ生徒が全体の約3分の1を占めるベルリンの小学校ではよくある話だということ。

「親子留学」のキャッチフレーズには、おそらく巷でよく謳われる「外国語教育は早い方がいい」、だとか「小さな頃に海外経験を積ませて視野の広い人間に育てよう」、だとかいう意識高い系ママに響きそうなものがほとんどなのだろう。

確かに経験といった点では一理あるかもしれない。だが、海外生活、英語圏ならまだしもそれ以外の不慣れな土地での育児はいいことづくしではないはずだ。マイナス面はネット上にあまり出てこないだろうし、自分ひとりなら仕方ないとしても、子どもに自分のエゴを押し付けるのは考えものだ。

ただ、この手の謳い文句に踊らされ、自分の頭でよく考えずに渡独を決め、うまくいかなくなったら「こんなはずではなかった。」と他人のせいにするのはどうかと思う。とにかく、理想論ばかり掲げるサイトは信用できない、と思った方が賢明だ。何事も他力本願では失敗する。

お金を出したところで、他人の人生の責任をとってはくれる人などいないのだから、最低限の生活情報くらいは事前にリサーチをしておくべきだろう。

そのためには、やはりある程度の語学力は必要になってくる。日本語の情報だけだとどうしても偏ってしまうため、最低でも英語、ドイツ移住を考えるのであれば基礎のドイツ語力くらいは身につけておきたい。

夏休みなど学校の長期休暇を利用して、まずは3週間くらいAirbnb*を利用したり短期契約のアパートを借り、試しに生活してみるのもいいかもしれない。

日本の学校休暇とドイツの夏季休暇は時期がずれていることが多いので、学校見学などをさせてもらうのも一案だと思う。

最初から1年とか3年という長期スパンで計画を立てようとするとハードルが上がってしまうので、まずは短期で様子を見ることをお勧めしたい。

私がベルリンに来た当時はネット環境も整っておらず、SNSなど以ての外だった。現地で実際に足と頭とわずかな人脈を使って、ひとつひとつ物事を解決するしかなかった時代だ。

今は事前に調べようと思えばいくらでも調べられる世の中なのだから、全て人に任せてしまうのではなく最低限のことは自分でリサーチするなりして、比較検討した上で決めればよいのではないだろうか。

場所を選ばずにできる専門職があり、金銭的な余裕があるのであれば、どんどんチャレンジしてもいいと思うが、そうでなければ「フリーランスですぐに稼げるようになる」、といった安易な謳い文句に踊らされるのは危険だ。

また、仮に途中でうまくいかないことがあればさっさと諦めて帰ればいいだけの話である。かっこ悪いなんて誰も思わない。

どちらにせよ、最終的な決断は自分で下す、という当たり前のことを忘れないようにしたい。

追記になるが、約3年間続いたコロナのパンデミックの影響やロシアのウクライナ侵攻の影響でこちらの日常生活そのもののハードルが上がっていることも忘れないでほしい。インフレの影響もそうだが、特にベルリンではアパートを探すのが非常に困難な状況であることも付け加えておこう。斡旋業者に頼るのであれば、住居確保については契約内容について渡航前に内容の詳細を確認することをお勧めしたい。そうでないと何かあったら路頭に迷うことになりかねない。とにかくできるだけ信頼できるソースから必要最低限の情報を集めて判断していただければと思う。

*最近、Airbnbを悪用した詐欺がある、との情報を得ました。ご利用の際はくれぐれもご注意ください。

▷ベルリン在ドイツ国日本大使館より「安全の手引き」が令和元年8月付で配布されています。その中でもドイツでの親子留学に関する被害事例が出ていたので、以下に貼っておきたいと思います。

在ドイツ日本国大使館による安全の手引きより

ベルリンの小学校生活やドイツ語の教授法に関する問題点などについても記事にしているので、興味のある方は以下のリンクやタグから飛んでみてください。

聴覚をもとに書く
昔ながらの教授法〜母語として書く
ベルリンの学校危機

海外生活や留学そのものを否定する意図は全くありませんので悪しからず。
良きドイツ(ベルリン)滞在を!!





Comments

“親子留学〜Mutter-Kind-Sprachreisen〜” への5件のフィードバック

  1. tabisurueiyoushiのアバター

    こんにちは(^^♪
    外国語教育、早いほうがいいですが、あまり早いうちから第2言語を勉強するのは、母国語が駄目になってしまうのではないか?と思ってます。
    私は小学校の時、下手に英語を習っていたため、英語の授業=聞かなくてもいい、となってしまい、高校生で気が付いた時には分からなくなってました( ;∀;)
    大人になって海外旅行が好きで現地の人と話したくて、勉強しなおして、留学したりもしましたが、確かに本人の気持ちだなあ、と思います。
    ドイツ語、難しいですよね。自身で勉強され、ドイツの大学に留学され本当に尊敬します。私ももう一度勉強してみようかな?多分無理だな…( ;∀;)

    1. mariko_kitaiのアバター
      mariko_kitai

      コメントありがとうございます。
      母国語の土台がしっかりしていない状況で第2言語を習得するのは、
      ある程度のリスクも伴うのではないかと思います。

      自分の意思で習うのと、親に言われてやるのとでは意味合いも異なりますしね。

      ドイツの大学に留学、というほど勉強をきちんとしていたわけではありませんので、
      ドイツ語に関しては仕事をしながら実践的に学んでいるような状態です。
      勉強するのに早いも遅いもありませんので、ぜひまたチャレンジしてみてくださいね。

      1. tabisurueiyoushiのアバター

        頑張ってみます(*^^)v

  2. YKKのアバター
    YKK

    初めてこちらのブログを拝見し、初めてコメントさせて頂きます。
    この記事の前にバイリンガル教育、補習校について書かれた記事を見て、なるほどと思ったところです。我が家も日本から8歳で渡独し、補習校に通う子どもがいるのですが、高学年の日本語ともなるとなかなか難しいですね。でも日本で育ったので、興味があれば抵抗なくニュースの朗読などしています。2足の草鞋は可哀想だなと思う反面、日本語を忘れるのももったいないし、ドイツ語が発展途上中である子には母語の基礎固めも大切かな、と思うところがあります。
    でも本人の周りにもたくさん外国人の子や片親が外国人である子がいるので、日本語を続けることだけでなく英語や第二外国語の授業にも意欲を持てています。
    バイリンガル子育ての当事者なので、補習校の様子など日本語に関する記事、たいへん興味深く読ませていただき… 次にこの記事を見たのですが、こちらを読んでコメントせずにはいられませんでした。
    というのも親子留学と思しき母子が昨年知人の前に現れ、周囲のドイツ人は親子留学を不思議に思うばかり、お母さんはドイツ語はできず、お子さんはドイツ語の習得に相当苦労しており、知人も心配していました。滞在許可が出たから住んでいらっしゃるのでしょうが、父親を日本に残しわざわざ縁もゆかりもないドイツに、現地校目的で来ているというのは、こちらの人の感覚では理解しがたいことだと思います。
    親子留学が外国人局に目をつけられて日本人の滞在許可にも影響を及ぼすのでは、と思ってしまいます。
    親子留学でなくとも現地に住む日本人、外国人家庭は、それなりに苦労がありますよね。偶然でドイツで暮らすことになった人たちの中にも苦労話はたくさんありますから、理想だけを追い求めて辛い思いをする母子も、いるのでしょう。

    1. mariko_kitaiのアバター
      mariko_kitai

      YKKさん、コメントありがとうございます。8歳で渡独されたお子さんがいらっしゃるのですね。母語の基礎がしっかりとあればプラスαの言語習得はうまくいくのではないかと思います。
      子どもひとりひとりの個性もありますし、一概にこうだと言えないのがバイリンガル教育の難しいところですよね。ベルリンは移民背景を持つ子どもたちがたくさんいるので、その中で
      得るものも大きいかと。一個人の経験談ではありますが、少しでもご参考になれば幸いです。
      ポジティブ一点張りの「親子留学」斡旋については疑問に思う点が多々あり、敢えてこの記事を書かせて頂きました。
      コロナ禍で斡旋も途絶えていたようなのでホッとしていたのですが…

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