閉じられた世界〜ザクセン州の状況〜

ここ数日、ツイッターのドイツ語で行われるスペースで気になるものがあったのでいくつか聞いてみた。中でも興味深かったのが、「ザクセン州の状況」をテーマに開かれたものだった。聞いた後にすぐまとめれば良かったのだが、少し日にちが空いてしまいメモを頼りにこれを書いている。

ジャーナリストや現場の医師、教授、心理学者など専門家を中心としたスピーカーだったのも聞いてみようと思った理由である。

スピーカーの共通認識としては、10月末に「疫病の緊急事態」(epidemische Notlage)を解除したことは大きなミスだったということ、総選挙を挟んだため連立交渉が優先され、合理的な措置が取られず後回しになってしまったこと。第一波直後には発揮されていたリーダーシップの欠如なども挙げられていた。その他にもメディアによる影響や誤ったコミュニケーションなどがポラリゼーションの原因にもなっていることなどについても議論が行われた。

非常に興味深いスペースだったので、録音が残っていないのがとても残念だ。思い出せる範囲でまとめてみようと思う。

中でもドレスデン工科大学のフォーレンダー(Prof. Dr. Vorländer)教授の話が面白かった。彼は立憲主義・民主主義研究センター長でもあり、政治理論・政治思想史講座を担当している。移民や統合も専門分野のようだ。

ザクセン州の中でも特に東部、南部、南西部、すなわちゲーリッツ、ツヴィッカウ、エルツ山地、ザクセンスイスといった地域に懐疑的な「レジスタンス勢力」が集まっているという話だった。アイデンティティーをAfD「ドイツのための選択肢」といった政党に求める傾向が強く、主要メディアには触れようともしない。社会との接触を絶ち「すでにガバナンスが効かない」といった表現も飛び出した。

元々、そういった傾向の強い地域に住む人々が、政府の危機管理コミュニケーションの失敗やAfDの政治キャンペーンなどの影響でますます凝り固まり、その殻を閉ざしてしまった可能性が強いということになるだろうか。

興味深かったのは、実際にザクセン州の小さな自治体出身の男性が状況を説明してくれたことだった。

「職場である工場に行くと、私以外はほぼ誰もマスクをしていないのです。コロナ政策のルールを守る人がマイナーなくらい誰も規則を守ろうとはしない。住んでいる者は主要メディアには見向きもしません。よく聞かれているローカルラジオが流れているくらいで、YouTubeやTelegramが主な情報源になっているわけです。私はワクチンを接種していますが、彼らが接種するとは到底思えません。」

過疎化している山村といったところでは、似たような状況が生まれやすいのかもしれない。バイエルンの山村でもワクチン接種率が低いことも指摘されていた。過疎化し、インフラも十分でない土地に住む者はどこか見捨てられた感覚を持ちやすい。政府がどれだけ素晴らしいキャンペーンを打とうが、一番届けたい層には届かない構造になっているということになる。

歴史的背景やもともとその土地に特有の「キャラ」のようなものも幾分かは関係あるはずだ。何より、東西統一を経て現在に至るまで、数々の失望が積み重なっている可能性も大いにある。東ドイツ政府に失望し、東西統一後にさらに失望し、現政権には期待すらしていない。東西統一関連でよく持ち出される「二級市民」という言葉があるが、西側に取り込まれるような形での再統一によって自己肯定感を奪われた旧東ドイツ市民もいまだに多い。

ただし、ここで避けたいのは旧東ドイツ=極右・陰謀論者といった短絡的な位置付けである。国に失望し、政治に懐疑的で自己肯定感を失い殻を閉じてしまった人々。そういった人々の不満をうまく利用しているのは他からやってきた政党であったり過激派であったりといった場合が多いにあるからだ。

政治の話は苦手なので、ブログではあまり扱わないのだが、過去に「ドレスデンのナチス非常事態とは?」でPEGIDA「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者」(Patriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes)について触れたり、チューリンゲン州の議会選挙ではAfDの台頭について書いたものもあるので興味のある方は是非読んでみてほしい。これらの傾向を放っておいたらとんでもないことになりそうな気がしたからだ。

2013年頃から現在まで、手をこまねいているだけで実際に何らかの対策が取られたような記憶はない。今回のスペースでも印象に残ったのは、誰にも解決策は分からない、という事実だった。いかにして必要な情報を届けたい層に届けることができるのか。閉ざされた殻をどのように開くことができるのか。どうすればこの地域のワクチン接種率を上げることができるのか。

2016年に難民をテーマにした取材でPEGIDAのデモの真っ只中に入って、デモ参加者に話を聞いたことがあるが、同じことを今できるかと聞かれれば「身の危険を感じるのでできればやりたくない」と答えるだろう。そのくらい全体的に過激化しているように感じるし、実際にメディアに対する暴力事件が後を絶たない。

ザクセン州やチューリンゲン州に存在する過激派勢力はコロナやワクチン接種、難民といった問題だけに留まらず、もっと複雑で根の深い問題のように思えてならない。

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閉じられた世界〜ザクセン州の状況〜” に対して2件のコメントがあります。

  1. issa より:

    2020年12月から2021年、DresdenとKamenzにいましたが、Sachsen外で言われる右派がいる地方、というイメージは自分が働いて暮らしている範囲では感じられず、でした。

    Kamenzはスラブ系言語のSorbischが標識にも表示されていたり、工場ではポーランドからの労働者がたくさんいたのでドイツ人とポーランド人が普通に共存している感じで、ドイツの田舎特有の雰囲気(私が知っているのはヘッセンとBW州、ブランデンブルグ州の田舎です)よりもよほど開放的でした。

    Dresdenではお店の店員さんとSachsenらしさは何、といった会話をしていたら、Sachsenを一絡げにするのはまとまりのない州なのでまずそれに違和感、あとは外部から見るとだけどと言葉を選んで、Leipzigの一部みたいな極右と極左が集まる街があるが、外部から来る人が多いのでそれをもってSachsenの人が、とは言い切れないのでは?と。

    最近のReichsburgerに関するドキュメンタリーを見ると、資金源が結構西ドイツの実業家だったりと、表では一見見えない地方間のつながりを押さえないで話すことは難しいな、と思ったことも。

    自分の体型的ではなく限られた経験、見聞きした情報ではありますが、参考までに。

    1. mariko_kitai より:

      コメントありがとうございます。文中にもあるようにドレスデン工科大学のフォーレンダー(Prof. Dr. Vorländer)教授のお話では、「ザクセン州の中でも特に東部、南部、南西部、すなわちゲーリッツ、ツヴィッカウ、エルツ山地、ザクセンスイスといった地域に懐疑的な『レジスタンス勢力』が集まっている」という説明でしたので、ドレスデン(Dresden)のような比較的大きな街やドレスデン近郊(約50キロ)のカーメンツ(Kamenz)ではまた事情が違うのでしょう。このブログではあくまでもスペースで議論されていた内容を要約する、という形を取らせていただきました。Querdenkenも西側の組織ですし、「旧東側のザクセン州に極右が多い」というような単純な話では全くないと思っています。実際に住んでみると感じ方も違うはずなので、貴重なご意見をありがとうございました。

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