ロシアのウクライナ侵攻から1年(2)

前回の投稿では2023年2月24日にベルリン市内で行われたデモについて触れたが、今回はその翌日25日に行われた別のデモについて触れつつ、27日に行われたコンラッド・アデナウアー財団主催のウクライナイベントについてまとめてみようと思う。残念ながら25日のデモには実際に現場に足を運んだわけではないので、記事や投稿を参照しながらという形になるが、その点はどうかご了承いただきたい。

1)#b2502とは何か

25日のTwitterのタイムライン上では#b2502というハッシュタグの付けられた多くの投稿を目にした。それらを追っていくうちに、24日の「ロシアのウクライナ侵攻に対する」デモの性格とは全く違う形でデモが行われていることを徐々に理解することになった。

ベルリンの頭文字bのあとにデモの開催日を並べたハッシュタグは、コロナ禍に何度か行われた「コロナ政策に対する反対デモ」で使われていたものと全く同じものだ。この種のデモには反ワクチン主義者や陰謀論者、極右団体に一般人などが入り混じっていたのが特徴的だった。それでは今回のいわゆる「平和デモ」(Friedensdemonstration)は一体どういった性格のものだったのだろうか。

アン=カトリン・ミュラー(Ann-Katrin Müller)氏はDER SPIEGELでAfD、国内安全保障や性暴力を専門にしている記者である。彼女は以下のツイートで「ここで多くの人が訴えているテーマは、反米主義、そして現在の政治体制に対する低評価や拒否感です」とデモの印象を述べており、写真をいくつか掲載している。

左上:戦車の形をした車体に書かれた文字「武器の供給をやめろ」
1812ナポレオン、1914ヴィルヘルム皇帝、1941ヒットラー、2023ショルツ/ベアボック
右上:「2度と戦争はごめんだ。ロシアとの平和」、ドイツ共和国(DDR)の国旗
左下:Qと書かれた上着を着る男性(Qアノン)
右下:ロシアの国旗に似せた配色の国旗に古いドイツ語の字体?(ライヒスビュルガー系?)

右下の旗に書かれた文字が読めないのが残念であるが、とにかく一番重要な点はウクライナの国旗が全く目に入ってこないこと。これだけでも前日に行われたデモとは趣を異にするものだということがわかるのではないだろうか。

#b2502というハッシュタグのついたツイートが多々ある中で、一番決定的でわかりやすかったのがAfDの極右政治家ヘッケ(Höcke)によるツイートだろう。ヘッケについては過去のブログ「アートと政治の関係」でも取り上げているので興味のある方は是非ご一読を。彼の「平和を愛するすべての人の団結のために! ヴァーゲンクネヒト、我々の元へ来てください! #b2502」という極右政治家による党への招待とも取れるこのツイートは多くの物議を醸すことになった。ヴァーゲンクネヒトは25日のデモのあと、左翼党(Die Linke)を離脱すること、新党結成か他の道を探ることにした、といった意向を表明している

ツァイト紙は「最近、ヴァーゲンクネヒトに対する批判が左翼党(Die Linke)の内外であり、特にアリス・シュヴァルツァー(フェミニスト、ジャーナリスト)と共同で書いた『平和のためのマニフェスト』がその原因となっている。左翼党幹部は、ウクライナ戦争記念日の集会の呼びかけを、ロシアとの距離の取り方が不十分であり、右派勢力との境界線がないものと見て批判した」と述べている。

25日のデモに集まった多くの人々は、現行の政治に対する根本的な不信感、戦争の拡大に対する恐怖、NATOとアメリカに対する拒否感で結ばれているような印象を受ける。人々の不安につけ込むという手段を取っていたのは新型コロナのパンデミック下に何度も行われた「コロナ対策反対デモ」を彷彿とさせる。

2)コンラッド・アデナウアー財団によるシンポジウム

上記の25日のデモから2日経った週明けの27日に、コンラッド・アデナウアー財団主催のシンポジウムが「カフェ・キーウ」で開催された。平日の月曜日、そして1日だけの開催というのにまず驚いた。10時からのオープニングの挨拶でラメルト理事長は「今日この機会にはっきりとさせたいことがあります。それは現在、ウクライナで起こっていることは一部地域に限定された事象ではなく、自由な世界に対する挑戦なのです」と述べた。

https://twitter.com/rbbabendschau/status/1630622627780870150

オープニングの挨拶に続いて行われたパネルディスカッションでは「なぜウクライナと自由は勝利する必要があるのか」というテーマについて、ウクライナ大使のオレクシー・マケエフ(Oleksii Makaiev)、連邦議会国防委員会のマリー・アグネス・シュトラック・ツィンマーマン(Marie-Agnes Strack-Zimmermann)委員長などによるオープンな討論が行われた。その際に、シュトラック・ツィンマーマン委員長は25日土曜日のデモで行われたヴァーゲンクネヒトやシュヴィアツァーの演説に対し、「武器の供給なしではウクライナという国そのものが存在できなくなる。このような状況で国民の意見を分断させるような演説を行うなどという行為は許し難い」といった痛烈な批判をしていたのが印象的だった。

DER SPIEGELの政治トーク番組では、逆にヴァーゲンクネヒトがシュトラック・ツィンマーマン委員長について「武器ロビイスト」(Waffenlobbyst)(ロビー活動を行う人)と揶揄したことが話題に上っていた。他にも彼女に対して「武器ばあちゃん」(Waffenomi)、極右に好んで使われるという「戦争屋」(Kriegstreiberin)、「再軍備家」(Aufrüsterin)などといった言い方がSNSなどで好んで使われるのだそうだ。

様々なパネルディスカッションの他にも、ウクライナの食事提供やSkrynya(宝箱)という名前がつけられたポップアップチャリティーマーケットも行われており、ウクライナの文化にも触れることができた。エコバックを販売していた男性に「ウクライナには行ったことがありますか」と尋ねられたので「2006年にキエフとオデッサに」と答えたが「そのとき僕はまだ小学生ですね」と笑顔で返された。ウクライナを訪問したのも、そんなに前のことなんだと改めて驚いた。

チャリティーマーケット
エコバック販売ブース / KASHTAN
MOTANKA人形作りのワークショップ

ウクライナ関係者も多い中で現在のウクライナ情勢に関する議論に耳を傾けていたが、アジア勢は見かけることもなくわずかな疎外感のようなものを覚えたことも確かだ。「EUの協力が必須」「NATOの協力が必要」こんなキーワードが幾度も飛び交ったが、冒頭でラメルト理事長も言っていたように欧州内だけに留まるような問題ではないはずだ。色々と掘り下げればいくらでも話が広がってしまうので、今回はこの辺で終わりにしようと思うが、少しでも「ウクライナの現状」について考えるきっかけになれば幸いである。

1日も早くモスクワやキーウ(キエフ)にこれまでのように再訪できる日が来ることを望んでいます。



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